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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)995号 判決 1968年11月08日

大阪府茨木市西駅前町九番三二号

原告 摂津信用金庫

右代表者代表理事 中川義一

右訴訟代理人弁護士 高橋靖夫

神戸市兵庫区水沢町三丁目三三番地

被告 株式会社小西組

右代表者代表取締役 小西増生

<ほか四名>

右被告五名訴訟代理人弁護士 野沢清

大阪市西区新町南通五丁目二九番地

送達場所 大阪市東区法円坂町六番地法円坂住宅一〇の四

被告 株式会社 前沢商工

右代表者代表取締役 前沢竜雄

右当事者間の昭和四三年(ワ)第九九五号所有権移転登記手続等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告らは原告に対し、それぞれ佐藤建設工業株式会社の破産管財人中村健太郎が原告に対し別紙目録記載の各不動産について昭和四二年一二月二六日付代物弁済を原因として大阪法務局高槻出張所昭和三八年五月四日受付第四四一二号所有権移転請求権保全仮登記に基く本登記手続をなすことを承諾せよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告はもと高槻信用金庫と称し昭和四一年一〇月一日合併により名称を摂津信用金庫と改めたものである。

二、原告は昭和三八年五月二日訴外佐藤建設工業株式会社(以下訴外会社という。)との間において手形貸付、手形割引等の与信取引をなす旨の契約を締結し、且つ右契約に基き同日訴外会社所有の別紙目録記載の土地について期限の定めなく、元本極度額五〇〇万円利息日歩三銭損害金日歩六銭なる順位一番の根抵当権設定契約をなし、訴外会社が債務の弁済を遅滞したとき或は右与信契約の期限の利益の喪失条項に該当したときは原告は代物弁済として右土地の所有権を自己に移転することができる旨の代物弁済予約をなし、別紙目録記載の土地について右約旨に従い同月四日大阪法務局高槻出張所受付第四四一一号抵当権設定登記、及び同日同出張所受付第四四一二号所有権移転請求権保全仮登記を経た。

三、原告は昭和四一年六月三〇日訴外会社に対し弁済期を同年七月三一日と定め金一、四〇〇万円の手形貸付をなし、支払確保のために同金額の満期を昭和四一年七月三一日とする訴外会社振出の約束手形一通を受領し、右手形を満期に支払場所に呈示したがその支払を拒絶された。

その後原告は訴外会社から合計金二二四万一、四二三円の一部弁済を受けた。

四、ところで訴外会社は右手形貸付残額一、一七五万八、五七七円の支払をなさないまま倒産し、昭和四一年一〇月三一日破産宣告を受け、中村健太郎が破産管財人に選任せられた。

そこで原告は前記与信契約に基いて、破産管財人に対し昭和四二年一二月二八日到達の書面をもって右債務のうち金五〇〇万円の代物弁済として別紙目録記載の土地の所有権を取得する旨の代物弁済予約完結の意思表示をした。

五、被告らは原告の前記仮登記の後に訴外会社との間の昭和四一年二月一日付のそれぞれ代物弁済予約、根抵当権設定契約、停止条件付賃貸借契約に基き、同年八月一三日大阪法務局高槻出張所受付第一三〇四四号を以て所有権移転請求権仮登記第一三〇四三号を以て根抵当権設定登記、第一三〇四五号を以て停止条件付賃借権設定仮登記をなしている。

六、よって原告が前記代物弁済予約完結にもとずき本登記手続をなすについて被告らが登記簿上の利害関係を有する第三者であるから、原告が前記仮登記に基く本登記手続をなすにつき承諾を求める。

と述べ、被告の答弁に対し別紙目録記載の不動産の価格が二〇〇〇万円を下らないことは否認する。本件代物弁済予約が清算型のものであることは争わないが、清算型代物弁済予約においては債務者が弁済期に債務の弁済をしないときは債権者において目的物を換価処分し、これによって得た金員から債権の優先弁済を受け、換価金額が元利金を超過するときはその超過分を債務者に返還すべきものであることは疑を容れないところであり、債権者が返還すべき清算超過分は、代物弁済により債務が消滅した時の目的物の評価額とその時における債務額とを計算してなさるべきであり、不動産を代物弁済に供した場合債務消滅の効果を生ずるためには所有権移転登記がなさるべきことを要することからして債務者の所有権移転義務が先に履行されるべきものであり、清算型代物弁済であっても債権者において所有権移転請求権を有するものであると述べ(た。)≪証拠関係省略≫

被告株式会社小西組、同山形実郎、同木本登、同永井芳数、同栗林義男の訴訟代理人は、原告の被告株式会社小西組、同山形実郎、同木本登、同永井芳数、同栗林義男に対する請求をいずれも棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、その答弁として、原告主張の三の事実は不知、同五の事実は認める。別紙目録記載の土地の時価は二、〇〇〇万円を下らず、仮りに原告にその主張の債権ありとしても清算義務があり、原告の本訴請求は失当である。と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

理由

被告株式会社前沢商工は本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから民事訴訟法第一四〇条によって原告が主張した事実を自白したものとみなされる。

被告株式会社小西組、同山形実郎、同木本登、同求井芳数、同栗林義男との間において、原告主張の五の事実は当事者間に争いがなく同一、二の事実及び訴外会社が昭和四一年一〇月三一日破産宣告を受け中村健太郎が破産管財人に選任されたこと、原告が原告主張の二の与信契約に基いて破産管財人に対し昭和四二年一二月二八日到達の書面をもって金五〇〇万円の債務の代物弁済として別紙目録記載の土地の所有権を取得する旨の通知をなしたことは右被告等が明らかに争わないところである。

≪証拠省略≫を綜合すると、原告は前記認定のとおり昭和三八年五月二日訴外会社との間において与信契約を締結し別紙目録記載の土地について元本極度額五〇〇万円の根抵当権設定契約代物弁済予約をなし、その旨の各登記をした外、昭和四〇年四月三〇日債権極度額四〇〇万円とする第二番根抵当権設定契約を締結し同年五月六日前記と同趣旨の代物弁済予約をなし同年五月一一日根抵当権設定登記、及び所有権移転請求権仮登記をなし、更に同年七月一七日債権極度額三〇〇万円とする前同様趣旨の根抵当権設定契約及び代物弁済予約をなし、同月二一日根抵当権設定登記、所有権移転請求権仮登記を経たこと、原告は訴外会社に対し、昭和四一年六月三〇日金一四〇〇万円を弁済期同年七月三一日の約定で手形貸付をなし支払確保のために同金額の満期を昭和四一年七月三一日とする訴外会社振出の約束手形一通を受領したが右約束手形は不渡となりその後訴外会社より合計金二二四万一四二三円の一部弁済があったのみであること別紙目録記載の土地の価格が合計一二〇〇万円を下らないことが認められ右認定に反する証拠はない。

そうすると、原告のなした代物弁済予約完結の意思表示により別紙目録記載の土地は原告の所有となったものというべきである。

被告らは、本件代物弁済予約は清算型であって原告は清算義務があり本訴請求は失当であると主張し、本件代物弁済予約が清算型のものであることは当事者間に争いがないが、債権担保のため同一不動産を目的として抵当権設定契約と代物弁済予約とを併せて締結した形式を持った場合債権者に清算義務があるが債権者が任意の方法で目的物を換価処分する前提として他の債権者より強制執行又は任意競売の手続のとられてきていない間は一たんこれを自己の所有名義にすることを許されるものといわねばならない。

そうすると原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 北浦憲二)

<以下省略>

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